※本記事は、2026年1月1日から施行される改正行政書士法(特に第19条第1項および第23条の3)を踏まえ、
当事務所の見解として整理したものです。
改正行政書士法で何が変わるのか
2026年1月1日、改正行政書士法が施行されます。
この改正は、行政書士業界内部の制度調整にとどまるものではありません。
登録支援機関として外国人支援業務を行っている事業者にとっても、
これまでの実務のあり方を見直ししなければならないかもしれません。
とりわけ影響が大きいのが、
「官公署に提出する書類の作成への関与」です。
これまで明確な線引きがされにくかった部分について、
今回の改正は、条文レベルで方向性をはっきり示しました。
改正のポイント①
第19条第1項 ― 業務制限規定の趣旨の明確化
改正後の行政書士法第19条第1項では、
行政書士または行政書士法人でない者について、
他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、
官公署に提出する書類の作成等(行政書士の業務)を
業として行うことはできない
という趣旨が、条文上明確に示されました。
特に重要なのは、
「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」
という文言が追加された点です。
これは、たとえば
本来、申請人である外国人本人または特定技能所属機関が作成すべき入管へ提出する「申請書」等について、
- 支援業務の一環
- コンサルティング
- 書類作成代行ではなくサポート
といったいかなる名目であるかを問わず一切認めないという、
立法上の明確な意思表示といえます。
したがって、申請書等の書類作成そのものに対する報酬が発生しない(無償)とした場合であっても、
その他の部分においてこれを含めて費用が発生していると客観的合理的に明らかである場合は違法とされる可能性が高いということになります。
改正のポイント②
第23条の3 ― 両罰規定の整備が意味するもの
今回の改正では、
第23条の3として両罰規定が整備されました。
これは、第19条第1項違反等があった場合に、
- 実際に行為をした担当者個人
- その担当者が所属する法人
双方に罰則が科され得ることを明確にする規定です。
つまり、
「現場担当者が独断でやった」
「会社としては関与していなかった」
といった説明は、
法的責任を回避する理由として通用しなくなる可能性が高い
ということを意味します。
登録支援機関にとって、
書類作成への関与はもはや個人レベルの問題ではなく、
法人のリスクとして捉えなければならない問題といえます。
登録支援機関の実務と、改正法が衝突する場面
登録支援機関の本来の業務である
各種支援対応が直ちに問題となるわけではありません。
問題となるのは、実務の現場で見られる次のような関与です。
- 入管へ提出する申請書(認定・更新・変更問わず)の作成代行
- その他の添付書類(雇用契約書や雇用条件書等)の作成代行
- 上記書類の記載内容を実質的に指示する行為等
これらはいずれも、
形式上どのような説明をしても、「官公署に提出する書類の作成」に該当する可能性が高い行為です
登録支援機関は、書類作成を「一切」できなくなるのか
この点について、当事務所の見解は明確です。
改正行政書士法施行後、入管に提出する書類に関し登録支援機関が報酬を得て作成を行う余地はありません。
したがって、「一切行わなわいほうが良い」と理解すべきです。
また、たとえ「書類作成は無償で行っている」と主張したとしても、
本来の支援業務で費用が発生している以上、それらから完全に切り離されたものであることを立証することは困難で、第19条第1項が禁止する書類作成行為と評価される可能性が高いと考えます。
さらに、
- 名目による回避が封じられたこと
- 両罰規定により法人責任が明確化されたこと
を踏まえると、
「どこまでなら書類作成に関与しても大丈夫か」と探る運用そのものが、すでに高いリスクを伴う
といわざるを得ません。
結果として、
登録支援機関は書類作成に一切関与しない
という運用が現実的かつ安全な選択肢であるといえます。
ただし、1号特定技能外国人支援計画の作成については、次のとおり一定の関与は認められています。
登録支援機関に1号特定技能外国人支援計画の全部の実施を委託する場合であっても、1号特定技能外国人支援計画の作成については、特定技能所属機関が行うこととなりますが、登録支援機関が必要に応じて支援計画の作成の補助を行うことは差し支えありません。
1号特定技能外国人支援に関する運用要領
改正法施行後の実務対応
改正行政書士法の施行後、
登録支援機関にとって重要なのは、単に書類作成を行わないことだけではありません。
登録支援機関が「違法な書類作成」を疑われないためにすべきことは、
「書類作成に関与していない」と客観的に説明できる体制の構築です。
以下では、改正行政書士法の内容と、
登録支援機関と所属機関(受入企業)との契約・運用の観点から、
実務上、特に効果の高い対策を整理します。
書類作成業務を「契約上」明確に切り離す
登録支援機関が身を守るうえで、最も重要なのが
契約レベルでの整理です。
たとえば、登録支援機関と所属機関との支援委託契約書等において、
- 支援業務の範囲から
「在留資格申請書その他、官公署に提出する書類の作成」を明示的に除外する - 書類作成は
所属機関等が行うべき業務(または行政書士に依頼する業務)であることを条文として明記する - 登録支援機関の業務は
生活支援・制度説明・相談対応等本来の支援業務に限定されることを明文化する
このような整理を行うことで、
「契約上も書類作成を行っていない」という客観的な根拠を残すことができます。
社内ルールとして「書類作成に関与しない」運用を徹底する
改正法施行後、
無意識のうちに違反リスクを高めてしまうのが、社内対応です。
たとえば、
- 申請書の下書きを預かる
- 記載内容について具体的な修正案を出す
- 「ここはこう書いた方がいい」と記載内容を指示する
これらの行為は、
その程度によっては「書類作成への関与」と評価される可能性があります。
そのため、
- 社内マニュアルで「申請書等の作成には一切触れない」ことを明確化する
- 所属機関等からの書類作成に関する依頼への対応は顧問行政書士に任せる運用に統一する
- 担当者任せにせず、組織としてルール化する
といった対応が不可欠です。
「証拠」を残す
また、万が一、
「登録支援機関が書類作成に関与しているのではないか」
と疑われた場合に備え、契約や取決めの内容はしっかりと残しておきましょう。
- 書類作成は業務外であることを明記した支援委託契約書
- 行政書士との顧問契約書(所属機関等と行政書士との業務委託契約書を含む)
- 行政書士が書類作成を行っていることが分かるやり取りの記録
- 書類作成に関与しない実務フロー
といった 証拠を整理・保管しておくこと も、重要な防御策です。
まとめ
今回の改正は、
登録支援機関の支援業務そのものを否定するものではありません。
しかしその一方で、
- 違法な書類作成に踏み込む事業者
を、制度の外に押し出す効果を持つ改正であることも否定できません。
改正法施行後に慌てないためにも、
書類作成は本来の業務から明確に切り離し、必要な場合は行政書士等に依頼する体制を、
今のうちに構築しておくことをおすすめいたします。
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