育成就労制度とキャリアパス設計

育成就労とキャリアパス設計
目次

育成就労制度の概要

育成就労制度は、令和6年6月21日に公布された 「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律」 により、現行の「技能移転による国際貢献」を目的とする技能実習制度から、「我が国の人手不足分野における人材育成・確保」へと転換する制度として新しく創設されるものです。

技能実習制度と育成就労制度の制度イメージ

育成就労制度の目的

育成就労制度では、国が定める「育成就労産業分野」において、外国人が3年間の就労を通じて特定技能1号水準の技能を身につけることを目的としています。あわせて、各分野における人材の安定的な確保も制度の大きな柱です。(※特定技能分野のうち、技能修得との親和性が高い分野が対象となります。)

基本方針・分野別運用方針

制度の運用にあたっては、まず国が「育成就労制度の基本方針」を策定し、さらに分野ごとに「分野別運用方針」を定めます。

そして分野別方針では、生産性向上や国内人材確保の状況を踏まえ、分野ごとの受入れ見込数(上限)を設定し、その範囲内で受入れを行う仕組みになっています。

育成就労計画の認定制度

企業が育成就労外国人を受け入れる際は、外国人ごとに「育成就労計画」を作成し、認定を受けることが必要です。
計画には、育成期間(最長3年)、育成する技能や業務内容、日本語教育の内容などを明示し、外国人育成就労機構の審査・認定後、入管へ在留資格の申請を行い、許可を受けることで受入れが可能になります。

監理支援機関の許可制度

企業と外国人の雇用関係を適切に維持し、計画どおり育成が実施されているか等を確認する役割として、監理支援機関が許可制で設けられます
許可基準は厳格化されており、従来の技能実習制度の監理団体も、一定の基準を満たさなければ監理支援業務を行うことはできません。

適正な送出し・受入れ環境の整備

育成就労制度では、送出機関に支払う手数料が不当に高額にならない仕組みの導入や、悪質な送出機関の排除に向けた取組を強化するため、二国間取決め(MOC)を作成し、外国人の受け入れはこの取決めを行った国のみから行うこととされています。

その他、受入環境整備の取組として、

  • 育成就労外国人の本人意向に基づく転籍を一定条件で認めること
  • 地域協議会を通じて、地域全体で受入れ環境を整備すること
    などにより、労働者としての権利保護と安心して働ける環境整備を促進するとされています。

育成就労における≪育成≫のイメージ(育成就労から特定技能へ)

育成就労制度は、

その対象とされる『育成就労産業分野(特定技能の特定産業分野のうち、就労を通じた技能修得が相当とされる分野)』において、『就労を通じた人材育成+人材確保』を目的とするとされています。

受入側が『育成就労計画(育成期間や業務・技能・日本語能力等の育成就労の目標)』を明確にしたうえで、外国人育成就労機構による認定を受け、外国人の育成を行います。

このように、現行の技能実習制度と違い、「原則3年間の就労を特定技能の前段階となる育成期間」として位置づけられており、

その意味で、育成就労は

育成就労期間の3年間で特定技能に進むための基礎を作る育成フェーズ

と考えると理解しやすいかと思います。

育成就労を起点とするキャリアパス設計

技能実習制度では実習修了後は母国に戻り技能移転を行うことを前提としているところ、
育成就労制度ではその次に続くキャリアとの関係において

  • 育成就労3年 → 特定技能1号(最長5年) → 特定技能2号

といった中長期のキャリアパスの起点になることが想定されています。

また、特定技能については、

  • 特定技能1号:
    • 人手不足分野における相当程度の知識又は経験を要する技能
    • 在留期間は通算5年まで
    • 原則として家族帯同は不可

  • 特定技能2号:
    • 同一分野でさらに高い熟練技能を要する業務
    • 在留期間の上限はなく、更新により長期在留が可能
    • 配偶者・子の帯同(在留資格「家族滞在」)が認められる

とされており、
つまり、育成就労を起点に特定技能2号まで進める人材を育成し、
「家族帯同を前提とした長期定着人材」を企業内に定着
させることが想定され得ます。

Phase
育成就労[3年]

特定技能1号への移行を見据え、日本語の基礎を固め、技能の習得を目指す「育成フェーズ」

Phase
特定技能1号[最長5年]

現場の前線で活躍するフェーズ

Phase
特定技能2号

熟練した技能を持つ中核人材・リーダー層としてのフェーズ

Phase
永住申請

特定技能2号で長期在留後、要件を満たせば永住申請も視野に

企業に求められる意識の転換

これまで技能実習生の受入れを行ってきた多くの企業では、
事業の成長や現場の安定運営のために、
実習生が重要な戦力として活躍してきました。

このように、技能実習制度の本来の目的が技能移転による国際貢献である一方、
多くの企業の現場では、結果として人材確保の手段としても機能してきたという側面があります。

一方で、すでに説明したように、あらたに創設される育成就労制度は、
従来の技能実習制度とは異なる位置付けが示されています。

育成就労制度の基本コンセプト

育成就労制度は、
「人材育成」と「人材確保」 をその両輪として設計されており、
企業が計画的に人材を育てていく仕組みが明確化されています。

たとえば受け入れのために作成が必要となる育成就労計画では、

  • どのような技能を
  • どのような業務を通じて
  • どのレベルまで育成するのか

などについて、企業が主体的に設計する ことが前提となっています。

これは、これまで実習生を迎え入れてきた企業が
すでに実践してきた「現場での育成」を、
より制度的に整理し、明確に位置付けたものと言えます。

求められる視点は「長期的な育成・活躍の場の設計」

したがって企業に求められるのは、
「短期間の戦力として力を発揮してもらうこと」ではなく、

「3年後・5年後、あるいは10年後にどのポジションで力を発揮できる人材へ育てていくか」

という “未来から逆算した人材育成の視点” です。

帰国を前提としていない育成就労制度では、企業にとっても、
将来の中核人材に育つ可能性を見据えて計画することで、
採用・育成・定着の戦略を一体的に描きやすくなるというメリットがあります。

外国人労働者にとっての「キャリアパス」

外国人労働者が日本で安心して働き、長期的に能力を発揮していくためには、「外国人労働者自身がどのように成長していくのか」という道筋を明確に示すことが重要です。

厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理に関する指針」では、企業は外国人を含む労働者の職業能力の開発・向上を支援し、適切な教育訓練やOJTを提供することが望ましいとされています。

また、能力や習熟度に応じた職務内容を整理し、どの段階でどの役割を担うのかを明確にすることが、安定的な雇用管理に有効であるとも示されています。つまり、外国人労働者が自らの成長段階や評価の基準を理解できる環境を整えることが、企業の雇用管理における基本姿勢であるといえます。

この点、特定技能制度は、外国人の「段階的な成長」を前提にした仕組み(特定技能1号から2号へ進むためには一定の技能水準や経験を必要とする)であり、この構造自体がキャリアアップの考え方を内包しています。

育成就労制度においても、「技能向上及びキャリア形成に資すること」を制度目的とされていることから、これらの制度を利用した外国人材の受け入れには、長期的な就労活動を視野に入れた適正なキャリアパスの作成・活用がその定着に資するものであることは間違いありません。

キャリアパス設計のポイント

キャリアパスを設計するうえで、特に重要なポイントは

キャリアアップのポイントが明確かつ現実的であること(を示し、目標を共有すること)

具体的には、

  • 何年働けば
  • どんな技能を取得すれば
  • どれくらいの日本語能力を身につければ
  • 社内の評価基準はどのようになっているか
  • そのための研修やフォロー体制はどのようなものがあるか

などについて、具体的に示し、外国人従業員からみて、
努力すれば届く現実的な目標であることを共通の理解とすることです。

適正に作成し、共通の目標として設定されたキャリアパスでは外国人従業員自身も現在の立ち位置と目標までの距離が明確になり、 「ここで頑張れば、自分もステップアップできる」 という前向きなモチベーションにつながります。
目標の共有の際には、外国人本人が十分に理解できる言語で行うことも忘れてはなりません。

[建設分野]育成・キャリア形成プログラム
[参考資料]引用:国土交通省「外国人材の中長期的なキャリアパス構築」

育成就労制度を活用するメリット

育成就労制度を適切に運用することで、企業は中長期的な人材戦略を描きやすくなります。

繰り返しになりますが、政府は本制度を「特定技能への移行を見据えた技能育成」と位置付けており、育成就労で基礎的な技能を身につけた後、要件を満たせば特定技能1号、特定技能2号として、長期間の就業が可能になります。

つまり、貴重な外国人労働力をこれまでの技能実習のように帰国前提のものではなく、“将来の中核人材”を育てる前提で人材戦略を組むことが可能になり、この点において現場の技能定着が進みやすく、適切な就業環境を整備し、魅力ある職場をつくることで、転職や離職のリスクを抑えられる点も企業にとって大きなメリットといえます。

さらに、制度の基本方針では「適正な受入れと定着支援」が強調されており、これに取り組む企業は外国人材の確保・育成において他社との差別化がしやすくなります。このことは育成就労に限ったものではなく、特定技能を含む制度全体として、継続的に人材を育てられる環境を整えることのできる企業は外国人にとっても魅力ある働き場所として評価されることにつながります。

育成就労は外国人と企業がともに成長する制度

このように、育成就労制度は、単なる労働力確保の仕組みではなく、「育成 → 働きながら成長 → 長期定着」というキャリアパスを制度上明確にした点が特徴です。

外国人本人にとっては将来の見通しが立ちやすく、企業にとっては中長期の人材確保につながる可能性があるという双方にメリットのある枠組みとなっています。

そのため企業は、制度が求める就労環境の整備や育成計画の運用に主体的に取り組むことが重要です。
適切な支援体制が整うことで、育成就労から特定技能への移行がスムーズになり、現場の安定運営や技能伝承が進みます。

今後、詳細な省令・運用ルールが順次示されていく予定であり、制度の動向を注視しつつ早い段階で受入れ体制を整えることが、企業の人材戦略として大きな意味を持つようになります。

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